Trending Searches

MUSINA

8人が「奇跡」と呼ばれた理由──NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDはなぜ色褪せないのか

NARI

NARI

2026.08.05 Update

Xでシェア
URLをコピー

引用元:NITRO MICROPHONE UNDERGROUND 公式サイト

この記事でわかること

  • 01.NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDは、8人のMC全員が異なる声・フロウ・韻の踏み方を持つ、日本語ラップ史上まれに見るクルー。
  • 02.Creepy NutsのR-指定とDJ松永は、この「全員が違う」という構成そのものを"奇跡"と評している。
  • 03.2000年のデビューアルバムは即完売し15万枚以上を売り上げ、四半世紀以上経った今も色褪せない存在感を放っている。

クルーというものは、普通、影響し合って似てくる。
同じスタジオで長く曲を作っていれば、声の出し方も、韻の踏み方も、自然と近づいていくものだ。

NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDは、その”普通”が通用しない8人組だった。
Creepy NutsのR-指定は、あるポッドキャストでこのグループについてこう語っている。
「8人いるんですけど、8人全員が声が違うし、ラップの仕方も違うし、韻の踏み方、歌詞の書き方も全員が違う。
全員が違う個性が8人揃うってだけでも奇跡」。
相方のDJ松永も「これは奇跡。だいたいクルーってのは影響しあって似てくるのが普通だから」と即座に頷いている。
日本語ラップの最前線に立つ2人が、四半世紀近く前に生まれたこのクルーを、今なお「奇跡」という言葉で語る。その理由を掘り下げてみたい。

8人全員が”違う”という組み合わせ

NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(略称:ニトロ)は1998年、東京のアンダーグラウンドシーンで頭角を現していたラッパーたちによって結成された。
メンバーはGORE-TEX、DELI、BIGZAM、XBS、SUIKEN、DABO、MACKA-CHIN、S-WORDの8人。

R-指定は、メンバーそれぞれの声質やスタイルの違いを具体的に語っている。
GORE-TEXについては「無機質なのにドスきいた声」で、言葉の置き方が独特だと表現。
淡々とライムを刻んでいたと思ったら、急に畳みかけるような詰め込み方に転じる瞬間があるという。
そして、そのGORE-TEXの後を受けるDELIの声について、DJ松永は「デスボイスと思うぐらい」だと形容し、「どっから出てんの?」と驚きを隠さない。
高い声、低い声、大柄な体格、早口、歌うようなフロウ――ある音楽ライターは、この8人の並びを「漫画みたいな8人組」と評したこともある。
それぞれが強烈にキャラの立った8人が、1曲の中でマイクを回し合う。
だからこそ、生まれる化学反応も桁違いだった。

「切ない気持ちのゴミ捨て場」という一節

そんな8人の中でも、日本語ラップ史に残るパンチラインとして語り継がれているのが「切ない気持ちのゴミ捨て場」という一節だ。
曲全体に一貫したテーマがあるわけではなく、内容を要約すれば「俺たちがNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDだ」というシンプルなものに近い。
それでも、この曲が放つ凄みは、何年経っても色褪せない。
ある評者はその凄みを、メンバーのDABO自身が語った言葉を借りて「化学反応としか説明しようがない」と表現している。

限定2万枚の即完売、そして15万枚へ

2000年10月7日、デビューアルバム『NITRO MICROPHONE UNDERGROUND』がReality Recordsから限定2万枚で発売された。
この盤は瞬く間に完売し、同年12月27日、メジャーレーベルのDef Jam Japanからリパッケージ版として再発。
最終的に15万枚以上のセールスを記録する大ヒットとなった。

この作品は、しばしばヒップホップ文化特有の「マイクリレー曲」の傑作として語られる。
多人数のマイクリレーは、往々にして冗長になりがちで、聴き手を飽きさせやすい。
それでも成立した数少ない例として、Lamp Eyeの「証言」と並んで名前が挙がるのが、このNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの表題曲だ。
当時、ストリートに関心のある人であれば誰もが耳にしていたと言われるほどの浸透ぶりだった。
ヒップホップ専門誌「blast」ではベストグループ・ベストアルバムの2冠を獲得し、アメリカの専門誌「SOURCE」でも取り上げられている。
海外からは、ウータン・クランのスタイルを日本語に落とし込んだクルーとして紹介されることもあった。

休止、そして再始動

2012年、ニトロは突然の活動休止を発表した。
メンバーそれぞれがソロや別ユニットでの活動を続けながら、7年の月日を経て、デビュー20周年にあたる2019年に活動を再開している。

S-WORD脱退、7本マイクへ

8人で結成されたニトロだが、現在は7人編成で活動している。
再始動翌年の2020年1月30日、東京・TSUTAYA O-EASTで行われたワンマンライブ「LIVE20」。
10年ぶりとなる新曲「歩くTOKYO」を含む全28曲を披露し、集まった1300人を熱狂させたこの夜に、メンバーのS-WORDが脱退することが発表された。

クルーの公式アカウントは「S-WORDが本人の意向により、昨日の『LIVE20』を持ちまして、今後のNITROの一員としての活動から一線を引くこととなりました」と発表。
S-WORDは今後ソロアーティストとして活動を続けるとされ、ニトロは同年2月1日から7人での新章をスタートさせた。
しわがれた渋い声でフックを担当することが多かったS-WORDの不在は、8人組ならではのアンサンブルに一つの区切りをもたらす出来事だった。
2022年12月には、7人体制のクルーとして通算5作目となるニューアルバム『SE7EN』をリリースしている。

近年の動き

2025年1月、メンバーのBIGZAMが自宅での薬物使用の疑いで逮捕・起訴され、同年2月、クルーとしての音楽・芸能活動を無期限で休止することが発表された。
クルーの公式アカウントによれば、この件について他のメンバーは一切関わりがないとされている。

これから聴くなら

初めてニトロに触れるなら、2009年発表のベストアルバム『Nitro X 99-09』が良い入口になる。
主要な楽曲のほとんどが収録されており、8人それぞれの個性の違いを、まとめて体感できる構成になっている。

クルーは似てくるものだという”普通”を、真正面から裏切った8人組。
その奇跡的な組み合わせが生んだ化学反応は、後続世代のアーティストにも語り継がれている。
8人が声を揃えることのない8人組だからこそ、四半世紀が経った今もなお、色褪せずに聴かれ続けているのだろう。

Read Next

NEWSLETTER

新しい音楽との出会いを
毎週お届けします

MUSINA編集部が厳選した「今週聴くべき新譜」や、特集記事の裏話などをニュースレターで無料配信中。