あの名曲には元ネタがある──有名Hip-Hop曲のサンプリング元を辿る7選
この記事でわかること
- 01.有名なHip-Hop曲の多くには、サンプリングという形で別の時代・別のジャンルの曲が隠れている。
- 02.Kanye West、Coolio、Jay-Zの名曲から、元ネタとなったソウル・ファンク・ロックの名曲まで辿る。
- 03.サンプリング元を知ることで、Hip-Hopという音楽がどれだけ豊かな音楽の蓄積の上に成り立っているかが見えてくる。
Hip-Hopを聴いていると、「この曲、なんか聴いたことある」と感じることがある。
その感覚は気のせいじゃない。Hip-Hopという音楽は、サンプリング──過去の楽曲の一部を切り取り、新しい曲に組み込む技法──によって成立してきた音楽だ。
有名な曲の裏には、ソウル、ファンク、ロック、時にはクラシックまで、様々な時代とジャンルの「元ネタ」が隠れている。
今回は誰もが知る有名曲のサンプリング元を7つ辿りたい。
元ネタを知ることで、Hip-Hopという音楽がどれだけ豊かな音楽の蓄積の上に成り立っているかが見えてくるはずだ。
Kanye West「Through the Wire」× Chaka Khan「Through the Fire」
2003年、自動車事故で顎を骨折したKanye Westが、顎をワイヤーで固定された状態でレコーディングしたという逸話で知られる「Through the Wire」。
このトラックの土台になっているのが、MUSINAでも特集したチャカ・カーンの1985年のヒット曲「Through the Fire」だ。
Kanyeはチャカのボーカルをおよそ4半音ピッチアップし、Kanye自身が後に「チップマンク・ソウル」と呼ばれるようになる手法の原型を作った。
原曲はBillboard Hot 100で60位にとどまったが、Kanyeのサンプリングによって全く新しい命を得て、ゴールド認定を獲得し、グラミー賞最優秀ラップソロパフォーマンス賞にノミネートされた。
タイトルの言葉遊びにも注目したい。
チャカの「Through the Fire」が「Through the Wire」に変わる──事故で顎をワイヤー固定された自身の状況と、原曲の「困難を乗り越える」というテーマが見事に重なっている。
Jay-Z「Izzo (H.O.V.A.)」× The Jackson 5「I Want You Back」
2001年、Jay-Zのアルバム『The Blueprint』からのシングル「Izzo (H.O.V.A.)」は、Jay-Zにとって初のソロトップ10ヒットとなり、Billboard Hot 100で8位を記録した。
プロデュースを手がけたのは当時まだ無名だったKanye West。
このトラックの核になっているのが、The Jackson 5の1969年の名曲「I Want You Back」だ。
年配のリスナーは懐かしいサンプルに惹かれ、若いリスナーは現代的なドラムに乗って楽しめる──世代を超えて愛される完璧な橋渡しになったとされている。
Kanyeはこの曲で、後に彼の代名詞となるソウルサンプルの使い方を確立していった。
Coolio「Gangsta’s Paradise」× Stevie Wonder「Pastime Paradise」
1995年、映画『デンジャラス・マインド/卒業の日』の主題歌として大ヒットした「Gangsta’s Paradise」。Billboard Hot 100で1995年最大のヒット曲となり、イギリスではラップシングルとして史上初めて初登場1位を記録した。
このトラックの元ネタは、Stevie Wonderの1976年のアルバム『Songs in the Key of Life』に収録された「Pastime Paradise」だ。
プロデューサーのDoug Rasheedが作ったこのビートを聴いたCoolioが、即興でラップを乗せたという逸話が残っている。
サンプルの許諾を得る過程にも興味深いエピソードがある。
Stevie Wonderは当初許可を渋っていたが、Coolioのマネージャーのパートナーがスティーヴィーの兄弟と知り合いだったことから直接交渉の機会が生まれた。
Stevieは「曲に含まれる罵り言葉をすべて削除すること」を条件に許可を出し、結果として「Gangsta’s Paradise」はCoolioの楽曲としては珍しく、汚い言葉が一切入っていない曲になった。
Kanye West「Stronger」× Daft Punk「Harder, Better, Faster, Stronger」
2007年のアルバム『Graduation』からのシングル「Stronger」は、フランスのエレクトロデュオDaft Punkの2001年の楽曲「Harder, Better, Faster, Stronger」をサンプリングした作品だ。
ツアー中にこの曲を聴いたKanyeが気に入り、ビートを作り始めたという。
制作は困難を極めたとされ、75通りのミックスが作られ、リリース後にはTimbalandによってドラムプログラミングが再構築されるなど、長期間にわたって調整が続けられた。
Daft Punk自身もこの曲を高く評価し、Kanyeが彼ららしさを保ちながらヒップホップに落とし込んだ点を評価したという。
さらに掘ると、「Harder, Better, Faster, Stronger」自体もEdwin Birdsongの「Cola Bottle Baby」をサンプリングしている。
Hip-Hopのサンプリングが「サンプリングのサンプリング」という多層構造を持つことを示す好例だ。
Kanye West「Power」× King Crimson「21st Century Schizoid Man」
2010年のアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』からの先行シングル「Power」。
このトラックは複数の楽曲をサンプリングしており、中でも最も有名なのが1969年のプログレッシブロックバンドKing Crimsonの「21st Century Schizoid Man」だ。
Hip-Hopがソウルやファンクだけでなくプログレッシブロックまでをサンプリングの対象にできることを示した楽曲で、この曲はサンプル使用の許諾問題で訴訟にも発展した。
それでも「Power」は批評家から高く評価され、Kanyeのプロダクションの幅の広さを象徴する一曲として知られている。
De La Soul「Eye Know」× Steely Dan「Peg」
De La Soulの1989年のデビューアルバム『3 Feet High and Rising』に収録された「Eye Know」は、Steely Danの1977年の楽曲「Peg」のギターサウンドをサンプリングしている。
ジャズロックバンドの洗練されたサウンドが、Hip-Hopのトラックの中で全く新しい質感を持って響く。
De La Soulはこのアルバム全体で、ソウルやファンクだけでなくロック、フォーク、コメディレコードまで幅広くサンプリングし、Hip-Hopのサンプリングの可能性を大きく広げたグループとして知られている。
The Notorious B.I.G.「Juicy」× Mtume「Juicy Fruit」
1994年のデビューアルバム『Ready to Die』からのシングル「Juicy」は、The Notorious B.I.G.の代表曲であり、Hip-Hop史上最も有名な曲のひとつだ。
そのトラックの土台になっているのが、Mtumeの1983年のR&Bヒット曲「Juicy Fruit」だ。
あの印象的なシンセサイザーのループは、聴いた瞬間に「Juicy」を思い出す人も多いほど、サンプリングが原曲を超えて広く知られる結果になった好例だ。
貧困から成功への道を歌うBiggieのリリックと、「Juicy Fruit」が持つ甘く豊かなサウンドの組み合わせが、この曲の温かみを生んでいる。
サンプリングが教えてくれること
7つの例を見てきたが、共通しているのは「サンプリングは単なる素材の使い回しではない」ということだ。
チャカ・カーンの「Through the Fire」を聴いた後にKanye Westの「Through the Wire」を聴くと、Kanyeがその曲の精神性そのものを引き継いでいることがわかる。
Coolioが「Pastime Paradise」を選んだのも、その曲が持つ社会的なメッセージ性と「Gangsta’s Paradise」のテーマが共鳴していたからだ。
MUSINAの「年代別必聴Hip-Hopアルバム」や「Wu-Tang Clan特集」でも触れたように、Hip-Hopのプロデューサーたちは「良い音楽の記憶」を次の世代に運ぶ役割を担ってきた。
サンプリング元を知ることは、Hip-Hopを聴く楽しみをもう一段深くしてくれる。
| Hip-Hop曲 | サンプリング元 | 元の年 |
|---|---|---|
| Kanye West「Through the Wire」 | Chaka Khan「Through the Fire」 | 1985年 |
| Jay-Z「Izzo (H.O.V.A.)」 | The Jackson 5「I Want You Back」 | 1969年 |
| Coolio「Gangsta’s Paradise」 | Stevie Wonder「Pastime Paradise」 | 1976年 |
| Kanye West「Stronger」 | Daft Punk「Harder, Better, Faster, Stronger」 | 2001年 |
| Kanye West「Power」 | King Crimson「21st Century Schizoid Man」 | 1969年 |
| De La Soul「Eye Know」 | Steely Dan「Peg」 | 1977年 |
| The Notorious B.I.G.「Juicy」 | Mtume「Juicy Fruit」 | 1983年 |
次にHip-Hopを聴くとき、ぜひ「この曲の元ネタは何だろう」と考えてみてほしい。