金木犀が香るたび、思い出す人がいる──秋のロックナンバー8選
この記事でわかること
- 01.9月に入り、金木犀の香りとともに聴きたくなるロックナンバーを8曲厳選した。
- 02.それぞれの曲には、作り手の不在や、バンドの休止・再始動といった、季節が巡るように繰り返される物語が刻まれている。
- 03.フジファブリックからWANIMAまで、世代を超えて愛される秋の定番曲を、その背景とともに紹介。
金木犀の香りが漂い始めると、決まって聴きたくなる曲がある。
不思議なことに、そういう曲の多くには、もうそこにいない誰かの気配や、一度途切れてしまった時間の記憶が刻まれている。
今回選んだ8曲も、ただ「秋らしい」というだけでなく、それぞれに固有の物語を抱えた曲ばかりだ。
赤黄色の金木犀(フジファブリック)
2004年9月29日発売、フジファブリック3rdシングル。春夏秋冬をテーマにした四季連作シングルの「秋盤」として作られた曲で、作詞作曲を手がけた志村正彦は当時のインタビューで「一年のなかで秋に書く曲って、センチメンタルなものが出るし、また特別なんですよね」と語っていた。
その志村は2009年、若くしてこの世を去っている。
デビュー当初から傍にいた奥田民生をはじめ、多くのミュージシャンがその死を悼んだ。
ある音楽ファンは、志村の死後もこの曲を聴くたびに感じる思いをこう綴っている。「金木犀の香りに気付いて、どこに咲いているんだろうと花を探したくなるように、志村が残してくれた楽曲を聞くと、彼が近くにいてくれる気がして、彼を探したくなる」。
毎年秋、金木犀の香りとともにこの曲が思い出されるのは、単なる季節性以上の理由があるのかもしれない。
楓(スピッツ)
1998年7月7日発売、スピッツ通算19作目のシングル。両A面の「スピカ」とともにリリースされ、8thアルバム『フェイクファー』にも収録されている。
派手な演出のない、静かな哀愁を纏ったメロディが、四半世紀以上を経てもなお「秋の定番曲」として名前が挙がり続ける理由だろう。
ヒット曲を量産していたスピッツにとって、決して一番目立つ曲ではない。
それでも聴き継がれているという事実こそが、この曲の強さを物語っている。
セプテンバーさん(RADWIMPS)
2006年発表、RADWIMPS通算3枚目のアルバム『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚〜』の2曲目に収録。
作詞作曲は野田洋次郎。タイトルの「セプテンバーさん」は”9月3日”という特別な日付に由来しており、まだメジャーデビューして間もない時期のRADWIMPSが持っていた、瑞々しい感情のありようが刻み込まれている。
9月3日が近づくたびSNS上で話題に上るのは、この曲が単なる季節ソングを超えて、ファンにとっての”記念日”そのものになっているからだ。
セプテンバー(サカナクション)
2019年発表、サカナクションのアルバム『834.194』に収録。
この曲には「セプテンバー -東京 version-」「セプテンバー -札幌 version-」という、都市名を冠した2つのバージョンが存在する。
同じ楽曲でありながら異なる編曲を聴き比べられるという仕掛けは、北海道出身の山口一郎らしい、故郷と現在地の両方への眼差しを感じさせる。
1曲の中に2つの街が同居しているという構造そのものが、この曲を単なる季節ソング以上のものにしている。
The Autumn Song(ELLEGARDEN)
2004年11月3日発売、シングル「Missing」に収録。
作詞作曲は細美武士。夏の終わりと、それにともなう喪失感を描いた抒情的なメロディを持つこの曲は、バンドの歴史そのものと重ね合わせて語られることが多い。
ELLEGARDENは2008年、人気絶頂の中で突然の活動休止を発表した。
理由は「新しい作品を作ることへのモチベーションにメンバー間で差が出てきたため」。
ファンにとっては大きな衝撃だった。
それから10年の沈黙を経て、2018年、バンドは再始動を果たす。
細美武士は後にラジオ番組で、この復活にはONE OK ROCKの存在が大きかったと明かしている。
復活ツアー「THE BOYS ARE BACK IN TOWN TOUR 2018」では、全公演にONE OK ROCKをゲストとして招いた。
かつて自分たちに影響を受けたバンドに、今度は自分たちが手を引かれて戻ってくる。
「The Autumn Song」というタイトルが持つ喪失感は、この10年という空白を経たことで、初めて完成した曲なのかもしれない。
イロトリドリ ノ セカイ(JUDY AND MARY)
1998年9月9日発売。
アルバム『POP LIFE』からのシングルカットで、作詞作曲はTAKUYA。
同日、別ユニットROBOTSからも同名異曲がリリースされるという競作企画も話題を呼んだ。
JUDY AND MARYは2001年3月に解散。
ボーカルのYUKIはその後、ソロアーティストとして新たなキャリアを築いていく。
解散から8年後の2009年には、後進アーティストによるトリビュートアルバムが制作された。
参加したのは奥田民生やHALCALIら。
奇しくも、その奥田民生は「赤黄色の金木犀」を作った志村正彦が慕っていた存在でもある。
世代をまたいで受け継がれていく敬意の連鎖が、この曲の周辺にも静かに存在している。
りんどう(WANIMA)
2019年10月23日発売、2ndアルバム『COMINATCHA!!』収録。
作詞作曲はベースボーカルのKENTA。
この曲は音源化前の2018年、全国ツアー「Everybody!! Tour」の中で初めて披露され、20万人を動員したこのツアーを通じて、ファンの間で「音源化してほしい」という声が高まっていった曲だった。
タイトルの「りんどう」は、メンバー3人の出身地である熊本県の県花。
KENTAはMV公開にあたり、「CDで音源を出す前からライブでずっと歌ってきた大事な一曲です」とコメントし、「群れて咲かないりんどうを見ていて、弱いままで強くなっていいことを教えてもらいました」と綴っている。
りんどうの花言葉は「悲しんでいるあなたを愛す」。
群れずに、山野で力強く根を張るこの花のように生きてほしいという願いが込められた曲だ。
秋に咲く花をタイトルに冠しながら、聴く人それぞれの弱さにそっと寄り添う1曲になっている。
金木犀の夜(きのこ帝国)
2018年9月12日発売、アルバム『タイム・ラプス』の収録曲。
この曲がリリースされた翌年の2019年5月27日、きのこ帝国は活動休止を発表する。
理由は、ベースの谷口滋昭が実家の家業を継ぐ決断をしたことだった。
ネガティブな理由ではなく、結成10周年という節目に達成感を覚えたことも大きかったという。
残るメンバーは、谷口以外のベーシストできのこ帝国を続けるイメージが湧かなかったとして、バンドとしての活動休止を選んだ。
ボーカルの佐藤千亜妃は、活動休止後もソロアーティストとして音楽活動を続けている。
ある音楽ライターは、佐藤がソロライブできのこ帝国時代の楽曲をバンドセットで演奏した際、演奏メンバーが違うだけでまったく異なる曲に聴こえたと振り返っている。
「この4人でなければ”きのこ帝国”にはなれない」。
「金木犀の夜」という曲名に、4人だけが作り出せた響きが今も宿っている。
季節をめくる音楽
1990年代から2010年代まで、時代の異なる8曲を並べてみると、金木犀という同じモチーフだけでなく、不在や別れ、そして再会という同じ主題が繰り返し現れていることに気づく。
志村正彦のいない秋、10年の休止を経たELLEGARDENの秋、4人が揃わなくなったきのこ帝国の秋、
群れずに強く咲くWANIMAの秋。
季節が毎年巡ってくるように、こうした曲もまた、聴くたびに違う意味を帯びて戻ってくる。
今年の秋も、そんな曲とともに過ごしてみてほしい。